ワイルドカード7巻 7月23日 午後4時

       ジョン・J・ミラー
         午後4時


「1946年のあのとき、私は医学校に通っていました」
ミスター・ボーンズはお茶を一口飲んでから続けた。
ワイルドカードがばらまかれて、私の体が歪み学校に
いられなくなりました。
黒人というだけでは十分な理由ではなくとも、ジョーカーの
黒人とあってはもはや容認できるものではなかったという
ことでした」
「その触手は治療に用いられているのですね」
ブレナンがそう訊くと、
ボーンズは頷いて、
「第六感のようなものが備わったと申しましょうか。
うまく説明はできませんが、盲目の人間が味覚や
触覚や嗅覚が鋭くなるといったような、そんな
感覚と申しましょうか。
私は何年もかけて、それを用い、患者の悪いところを
探知できるようになりました」
そこでボーンズはカップを置くとジェニファーに視線を
向けていた。
ジェニファーが呻きを漏らしていたのだ。
それはここに運び込まれて、初めて漏らした音だった。
触手をジェニファーにかざし、心音を聞き取ると、
ブレナンに視線を向けて、
「鞄をとってくれるかな」と言ってきた。
ブレナンはただちに鞄を運び、ボーンズの横に置くと、
ボーンズはそこから注射器と、何らかの透明な液体を
と取り出して、ただちにそれを注射したところで、
ジェニファーの呼気が強くなって跳ねあがり、額に汗が
が滲みだしたかと思うと、
ジェニファーは起き上がって、
「ダニエル、どこにいるの?ダニエル」そう叫んでいた。
すぐ隣にいるのが見えていないようだった。
ボーンズは軽く身を引くと、ブレナンにそこに
来るようみぶりで示し、
ブレナンは膝をついて、ジェニファーを抱きしめていた。
しっかりと抱きしめたその体を、汗でびっしょりであるにも
関わらず、冷たく感じていた。
「ダニエル」そう囁かれた声は弱々しいものだった。
たまらずボーンズに縋るように視線を向けると、
がっしりした手を肩に置いて「心配ありませんよ、旦那son
そっと寝かしておいてください。もう峠は越えたようですから」と応えてくれた。
ブレナンはジェニファーの手をとったまま、ジェニファーを見つけていた。
どうやら眠りについたようで、寝息もしっかり安定したように思える。
枕を当てがうと微かな呻きを漏らしみじろぎをしたようだった。
「眠る必要があるようです」ボーンズはそう言って、
「鎮静剤は利いているようですから、少なくとも24時間は
安静にしておいたほうがいいでしょうね」
そこでブレナンは安堵の息をつきながら、
「それでは心配ないのですね」と言葉を返していた。
それに頷いて応えたボーンズに、
「感謝します、先生、いやミスター・ボーンズ、あなたに
借りができたようだ」
それにボーンズは細い肩を竦めて
「特に料金などは決めていません。払える分だけで充分です」
ブレナンはデニムジャケットの懐に手を入れると、内側の隠し
ポケットから札束を取り出し、それをボーンズに手渡して、
「今あるのはこれだけです」そう言って、
「もし必要になれば、この電話番号に連絡くだされば、
またお支払いできます」そう告げて、烏賊神父の秘書から
受取った紙に電話番号を書いて手渡していた。
「気前のいいことだ」そう応えたボーンズに、
ソファーで平和な寝息を立てているジェニファーを見つめつつ、
「あなたはそれだけのことをしてくださいました。
いつでも構わない」と言い添えて。