ワイルドカード7巻 7月23日 午後9時

        ジョン・J・ミラー
          午後9時


トンネルの中は予想通り暗く人影もなく静寂に満ちていた。
クリスタルパレスには警察の監視がついているが、クリサリスの
用意したこの地下トンネルから続く秘密の入り口のことは
知られていないと考えたが、その通りのようだ。
もちろんそれも希望的観測にすぎないということはわかっている。
烏賊神父にジェニファーを任せ、パレスから2ブロック離れた
ヘンリー・ストリート辺りから地下に下り、そのままパレスを
目指した。
ここを通るのは以前パレスの寝室でオーディティと出くわした
夜以来だ。
そういえば他に使っていない近道もあった。
そこで片手に電灯を持ち、もう片手に組み上げた弓をもって
どうしたものかと思案していると、先の方からたくさんの脚の
たてたものと思われる微かな足音のようなものが聞えてきた。
闇を照らしつつも、それで自分の場所が特定されてしまうのでは
都合が悪い。
とはいえ明かりを消し、完全な闇にするのも憚られ、足元に
置いて、矢をつがえ、弓をひきつつ光の作る輪から離れたところで、
声が聞こえてきた。
そう聞き覚えのある声だ。
「ダニエル。愛しのアーチャー。怖がることはないのよ」と。
それはクリサリスの声だった。
いや亡霊の声というべきかもしれないが……