ワイルドカード7巻 7月23日 午後10時

      ジョージ・R・R・マーティン
          午後10時


公園は熱くじめじめしていて、至る所で焚火が焚かれている。
ジェイは歌声や叫びの聞こえていた方向に向かい、木々の
間を抜け、テントを見て回りサーシャを探していた。
もはや時間は関係なく、勝利の予感に沸き立っていて、
ナットであろうが、ブレーズのようなタキス人であろうとも
諸手をあげて歓迎するムードが出来上がっていて、どこに
行こうとジョーカー達が握手を交わし、肩を叩きあい、
飲みかわす姿が広がっていて、どの肩にもハートマン支持の
たすきが掛けられているのだ。
そしてHibachi火鉢からはソーセージにアロマの
芳香が交じり合いった芳香が立ち昇っていてむせ返るようであり、
さらにキャンプファイアーからは、Hobo路上で生活する者達の
煮るシチューの香りが入り交じり、木々の上を移動するリスで
すら歩を緩めるのではないかと思えた程だった。
ビールの缶同士をぶつけ乾杯する音は、さながら千のクリケット棒を
ぶつけ合うかのようで、高揚し飲みかわす人々の狂騒はもはや狂乱の
体をなしていて、正気の沙汰とは思えない段階に至っていた。
グレッグ・ハートマンが大統領になれば、事態は好転するに違いない。
この公園に集いしジヨーカーのみならず、全ての恵まれない魂は
救済を得る。
その救いの手は目前に迫っていると思っているに違いない。
夜が明ければその救いの手は、実はMordor闇の王国に誘うもので
あるのを知ることを知って却って絶望することになるのでは
ないかとジェイには思えてならず、いたたまれなくなっていたところに、
「ホテルに戻ろうよ」ブレーズはまたそんなことを言いだしていて、
「つまんないもの」と重ねたところに、
「おいおい」ジェイはそう切り出して、
「いわば歴史的瞬間というやつだぜ。良く見て、その香しさを味わったら
どうなんだ」ジェイが自分に言い聞かせるようにそう言葉を継ぐと、
「どこが香しいというの?」ブレーズは鼻をひくひくさせながら
「ひどいビールの匂いしかしないじゃないの……」
そんなことを言いだしたものだから、ジェイは噴き出しそうになりながら、
「まだ探偵らしいことは何もしていないじゃないか」
と言って取り繕うと、
「ジョーカーばっかじゃないの」ブレーズはそう言って、
「僕にマインドコントロールさせれば手間が省けるんじゃないの。
知ってたって嘘をつくにきまってるんだからね。そうしようよ」
そんなことを言いだしたところで、
「駄目だ」と釘を刺し、
「サーシャをみつけたら、本当のことを話してもらわなくちゃ
ならんが、それまで我慢するんだ」
そう言い聞かせたところで、ドウボーイを見つけることができた。
一人でマンホールの蓋をフリスビーのように投げて遊んでいるよう
だった。
12だか13ヤードだか飛ばして、草の上に落ちた蓋を拾って
何度も投げているが、さすがにフリスビーほど飛びはしないが、
そんなことは気にもしていないというものか。
その丸い顔に子供のような無邪気な笑みを浮かべていたが、
ジェイが声を掛けると、その手を止めて真顔になっていた。
気まずく思いつつ、
「サーシャを探してるんだがね」そう言葉を被せ、
クリスタルパレスで働いてた奴だ。どこかで見なかったか?」
そう訊くと、
ドウボーイは頭をゆっくり左右に振ってり回していやいやを
して、
「あ、遊んでた、だ、だけだよ」そう応えたところで、
ブレーズが笑いだして、
「いい遊びを思いついたものだね」などといったものだから、
ドウボーイは、薄く不器用な指を服に絡ませ、いたたまれない
様子を示したところに、
ジェイは辺りを見回しながら、
「わかった。もういいよ」と言って、
ブレーズに手振りで手はださないように示すと、
「どうしてダメなの?」と言いだしたのに構わないでいると、
顔を真っ赤にして怒りを堪えているのに気づき、
させてやるべきだったかと思っていると、ブレーズは突然
顔を背けたかと思うと、
「まぁいいか」そう小さく呟いて、
「わがままを言い過ぎたかな」とまで言って殊勝な態度を示した。
「まぁ構わんさ」とジェイが応え、
しばらくの沈黙の後に言い添えていたのだ。
「気にするほどのことじゃない。さてと次に当たろうじゃないか。
どこかその辺にいるだろうからな……」と。