ワイルドカード7巻 7月25日 午後10時

   ジョージ・R・R・マーティン
        午後1時


ブレナンとそのガールフレンドがいなくなった
ところで、ようやくタキオンは、精神の拘束を
解いてくれた。
タキオンの身体は小刻みに震えていて、眉も汗
びっしょりとなっていた。
ジェイはドアから駆け出して、ホールに飛び出し、
上から下までじっくり確認してみたが、エレベーターを
待つものは誰もおらず、非常口から非常階段まで
見てみたものの、そこにも誰もいない。
そこでようやくどっと疲れが押し寄せて、ようやく
安堵の息をつくことができた。
そして大声で悪態をついて、室内に戻り、バタリと
ドアを閉めると、思ったより大きな音がしたようで
タキオンが嫌な顔をしていた。
ジェイはタキオンを指さして、指がぷるぷるするのを
感じながら、
「何をしたのかわかっているのか?ディマイズと変わらない
危険な男を野に放ったようなもんだぜ」
しばらくタキオンは何も言い返さずにいると思っていたら、
その菫色の瞳がぐるっと回ったかと思うとバタンと卒倒していて、
「なんてこった」ジェイはそうぼやいていた。
一週間を締めくくる最後の仕事としてこれ以上
相応しい結末はあるまい。
そんなことをぼんやりと思いながら、
ハイラムに視線を向け、
「なぁおい」と声をかけ、
「このちびの御仁をベッドに戻すのを手伝ってくれないか」
そう頼んでいたのだ。



      ジョン・J・ミラー

        午後10時


いつもではないにしても、ブレナンとて責務に
終わりはないのではないかと思うこともある。
間を置かずジェニファーとアトランタを離れ、
空港の駐車場に停めておいたヴァンを駆って、
クリスタル・パレスのあった場所に向かった。
暗くなっていて、道行くものもまばらで、
あの水晶を思わせる淑女が息を引き取って、
パレスも消失してからは訪れるものもない
ようだ。
ブレナンはしばし廃墟に佇んでいた。
大気にはまだ焦げたような匂いの名残が
感じられ、まだ記憶に残ったあれこれが
思い出されてならないが、そこを一回りして、
焼け残った柱の残骸の傍に立ち、中の住人が
気づくまでじっと待っていた。
そして「どんな具合だ?」と声を掛けると、
「悲しいですよ、あの方もいなくなって、
家も焼けてしまったのですから」
「こんなことになるとは思っていなかった」
「起こってしまったことは変えようがありません」
幾分非難がましい声でそう返され、
「そうだな」とブレナンも応え、
「行く当てはあるか?」と言い添えると、
小さな頭でかぶりが振られた。
ないということか。
「そうかな、ないこともあるまいて」
ブレナンは穏やかにそう言い添えていたのだ。