その9

    ウォルター・ジョン・ウィリアムズ
       1988年7月20日
          午後8時


スポットライトがジャックの目には眩しい・・
テレビの口角レンズに対してはショットガンの
ように身体が身構えるようになっているのだ・・
そうしたステージに対する恐怖に取り込まれると
脚が竦んで言うことをきかなくなる・・・
ここ数年はそうならなかったというのに・・・
そうして明かりを見上げていると、世界が歪んで
嘲笑っているように感じられて・・・
またあのときの感情が呼び起こされてくる・・・
何が正しくて、何を越えてはならなかったかという
ことを問いかけてくるのだ・・・


31番目の州、ゴールデン州(ニューヨークの俗称)、
そこの314票がジョーカーの権利条項、そして次期
大統領グレッグ・ハートマンに投じられた票だ・・

轟音と喝采、間抜けな帽子に飛行エースグライダーが
飛び交う中・・・
ジャックは毅然として、悠然とかつ当然であるように
見えるよう勤めていた・・・
スポットライトがコロラド州の議長の上に移るまでは・・

あんたの番だぜ、ロナルド・レーガン
あいつにカメラをどう使うのが効果的かを示せていたらいいのだが
そう内心思いながら当然の如く赤白青で彩られた演壇から
降りた・・
あの男は得票総数も明らかになっていないうちにコロラドから
出てきたのだろう・・・
残念ながらコロラドではデュカキスとジャクソンに及ばなかった・・
最初の投票ではハートマンが1622票、バーネットが998票で、
あとはデュカキスとゴアに票が割れたかたちになっていて・・・
誰が勝つかは微妙なところになっていて・・・
マスコミが次の予測を発表するたびに混乱は増すばかりで・・・
9条C項を睨みながらどっちつかずの態度である候補者が多い中、
最初の投票が行われて・・・
その30分後に二回目の投票が行われた・・・
選挙参謀が十分な根回しを行ったということだろう・・・
ハートマンは今のところ50票を得ている・・・
主にデュカキスとゴア辺りからといったところか・・・
その50票が固定票か浮動票かがマスコミで語られている・・
中々手に汗握る状況であるようだ・・・
予想に反する投票をした代議士もいるようでまだ予断は許されないと
いったところか・・・
そうして落ち着かない時間が4時間も続いているのだ・・・
ジム・ライトなどは眠気眼で三回目の投票が必要だろうとぼやいている・・
そうしていると三局がコマーシャルの後、通常の放送に戻って・・・
Johnny CorsonPBSのみが選挙報道を
続けている・・・
おそらく数千人といわれているPolitical Junkie政治屋崩れをあてこんでのことだろう・・・
ハートマンは1800人の得票を得たようで・・・
当確はまじかといったところか・・・
そこで放り投げれて天井の辺りにひっかかった帽子やグライダーが
映し出された・・・
ジャックの足元にも転がっていて・・・
拾い上げて外に放ると飲み込まれるように闇の中に消えていった・・・
外にはすでに星条旗がちらついていて・・・
勝利の熱気に満ちているように思える・・
じきスイートで祝杯を上げることもできるだろう・・・
そう考え倒れるようにベッドに入ったが・・・
ぼんやりとボビィという名の娘のことを考えている・・・
あの娘を呼んで一緒に健康な汗を流したら、少しは気持ちが
上向きになるのじゃなかろうかと・・・
そうして胡乱な意識のままに・・・
眠りに落ちていったのだ・・・