その16

メリンダ・M・スノッドグラス
1988年7月21日
午後7時



突然目が覚めた・・・
完全なといってよい状態で・・・
満たされた、といってよい気分で・・・
より正確にいうならば・・・
空っぽで漂うような抑圧と困惑にとらわれた
寄る辺なき状態からようやく解放されたように
思われて・・・
寝乱れたジーツを蹴り飛ばして抜け出すと・・・
汗と情事の名残が部屋中に重くたちこめるのを感じながら・・・
空になったベッドに絶望しそうになり始めたところで・・・
枕の脇に腰を下ろし気を静めていると
浴室から水の流れる音がして・・・
フルールが現れ、にじり寄ってきた・・・
胸は上下していて、タキオンが目を覚ましたのに気づいたようで
今は腕で覆われている・・・
「おイタはだめ、私が見てるんだから・・」
「異教徒にはつれないのですか?」
「そうね、あなたは王侯貴族かもしれないけれど」
フルールはそういうと掛け布を持ち上げながら言葉を継いだ・・・
「こういうのはよくないわね・・・」
「言葉の綾ではないですか・・
それとも未婚であるという宗教上の理由ですか?」
「どうして未婚であるとご存知ですか?」
フルールはそこで窓枠にもたれかかりながら・・・
わずかな布切れで覆われた腰を幾分持上げて佇んでいる・・・
「そうではありませんか?」と声をかけると・・・
フルールは身を硬くして応えた・・・
「私のこころを読んだのね?」と・・・
「いいえ」
「二回目のとき、そうしようと持ちかけたじゃない?」
「一回目のときはそれどころではありませんでしたからね・・
その・・・また駄目になるかもしれないと・・・
きがきではなかったものですから・・・」
「心は読まないで」
「いいでしょう、そうした方が具合がいい、というだけの
はなしですから、それで構いませんよ・・・」
「こころにずかずか入ってこられるというのは恐ろしいことなのですよ」
「フルール、あなたのこころはまだ読んでいませんよ・・・それだけは
こころにとめておいていただきたい・・・抵抗を感じたものですから・・
それ以上深入りしようとはしなかったのです・・・
私は礼儀というものをよく弁えておりますし・・・
それなりに魅力もあって見目麗しく機知に富んでいる、とも思うのですよ・・・」
そこでフルールは浮かない顔をして・・・むっつりと黙り込んでしまったので・・・
タキオンはベッドサイドのテーブルに置いたフラスクを手繰り寄せて・・・
おおきく一のみしてから言葉を継いだ・・・
「お母さんはね・・・夫に子供、家庭に幸福といった多くにあなたが
恵まれることを望んでいましたよ・・・」
「あの人のことは言わないで」
「いけませんか?」
「昔のことだわ」
するりとベッドに潜り込んで、手で股間のそれを包みながらフルールは
投げるような言葉を搾り出していた・・・
「今ここにいるのは私だわ、あの女じゃないのよ・・・」と・・・