その21

     ウォルター・ジョン・ウィリアムズ


マリオットの中庭をゆっくりと落下しつつ・・・
端からみてると間抜けに見えるだろうなと思いながら・・・
ともかく手足をばたつかせてみたが・・・
バルコニーからは大分離れてしまっていて・・・
眩暈にも似た恐怖に囚われつつも・・・
ともかく下にいるであろう人間を巻き込まないよう
声を上げると・・・
下から間抜けにも<Don`t cry for me Argentina
アルゼンチンよ、私のために嘆かないで>の響きが
届いてきて包まれるようになりながら・・・
ともかく何かをして落下をゆるやかにしようと・・・
スカイダイビングの要領で手足を伸ばし・・・
胃がひきつるような感覚におそわれつつも・・・
その甲斐あって何とかバランスをとることができて・・・
眩暈もおさまってきたが・・・
ジバンシーのシャツの残骸を旗のように翻せながら・・・
唸るような音を耳にしながらも・・・
中庭に落ちた状況を思い返していた・・・
なにしろ全体重をのせたパンチの勢いのまま落ちたのだ・・・
そのままの勢いのまま地面に激突するに違いない・・・
段々考えるのが億劫になりつつもともかく考えに意識を集中させることにした・・・
中庭にひしめく色とりどりな人々は、籠にいれられたトカゲのように曖昧にしか認識
できはしなかったが・・・
ともかくジャックは落ちる角度を調整し、誰の上に落ちるか思い定めた・・・
あの男ならばうまくいけば落下の衝撃を和らげてくれることだろうから・・・
頭を下に向け声を立てつつ・・・
腕を振回し姿勢を制御して・・・
ピアノの音量に負けないきのきいた言葉はなんだろうかと間抜けなことを考えていると・・・
20フィート上空に達したところで目的の男を見失ったため・・・
誰も巻き込まないよう人々のきをひくべく叫んでいると・・・
下を飛行エースグライダーの色合いが横切っていったところで・・・
ようやく人々も気づいたとみえて散らばっていったおかげで・・・
白いスーツに身を包んだ巨漢の姿を再びとらえることができた・・・
そこを目指して落花しているうちに・・・
個別の人々の区別もつきようになっていた・・・
金髪に黒い肌の娼婦が逃げようとしながらも、ハイヒールが邪魔になってうまく
走れない様子や・・・
白いタキシードの男がようやく気がついて驚く様子もみてとることもできた・・・
その男、ハイラム・ワーチェスターは飛び上がって拳を振り上げたところで・・・
アール・サンダースンの姿が横切っていった・・・
翼は破れているのに・・・一途に光を目指しているかのようで・・・
ふと哀しみに満たされたようになりながら・・・
だめだったか・・・とふとそう考えたときだった・・・
突然耳を聾するような轟音が巻き起こって・・・
身体ががくんと持ち上がるのを感じることができた・・・
それは突然エレベーターが動いたときのような感覚だな・・・
などと考えているともはや落下は止まっていて・・・
身体が軽くなっていることが感じ取れた・・・
そうしてハイラムが重力を制御してくれたが・・・
完全に勢いをころすことはできなかったようで・・・
白い何かの上にどさっと落ちることになった・・・
目を開けるとそれはグランドピアノの上だった・・・
そこに体をめり込ませたようになりながらも・・・
そこで安堵とともにこう考えて苦笑していたのだ・・・
これであの忌々しいアルゼンチンの旋律を聴かなくてすむ、と・・・