「手繰られしものたち」その30

マッキーは左手で、ウルリッヒの喉から尻まで一気に切り裂いた。
その心地よい感覚は骨の髄まで感じられ、勢いが増していく・・・
ウルリッヒは手をだらんとたらし、そんなマッキーを見つめていたが、
唇を剥いて、その下の完璧とも思える調った歯を三回かちかち空けたり
閉じたりして鳴らした、それはからくり細工に空いた窓のようだ・・・
そうして己の野生的で完璧だった身体のなれの果てを眼にして、悲鳴を
あげた、それはマッキーの耳には心地よい響きだった・・・
叫びは、むき出しになった肺から迸り、灰色がかった紫、いや赤と青の
蔦の絡まった、真空掃除機のようで間抜けに思われる・・・
そこで銃を持ち上げようとしたが、血が迸ってその力を奪っていった。
そうして立つこともできなくなり、崩おれていった・・・
Holy Mary.Mother of God(なんてこった)」ウィルフリードがそうこぼして、
仲間の亡骸の上に吐寫物をぶちまけ、マッキーに視線をすえようとして、鋭く叫んだ・・・
No(こんなことが)・・・」
アネッケがカラシニコフを構え、小柄なエースの背後に立ったが、指は恐怖で
かじかんでおり、堅く感じられてならない・・・
撃つことはできたが、すでにマッキーは位相を変化させており、その衝撃で
ウィルフリードの身体を跳ね飛ばしたにすぎなかったのだ・・・