「手繰られしものたち」その34

ベルリンの下町をまだらなサーチライトに照らされながら装甲車が行く。
そこに乗せられたセイラは、前に座っているGSG-9の男たちを視界にいれながらも、その思いは内に向かっていた。
私はどうしてしまったのだろうか
ハートマンへの愛情が形を失い、以前ほど確かには感じられなくなっているのだ・・・
奇態なことながら、実に不思議に感じられすらする
なぜ愛しているなどと感じていたのだろうか・・・今は何の感情も感じられはしないというのに・・・
だがそれは真実の感情ではあるまい、罪悪感という名の禍々しい毒が、愛情に染み入って、それを麻痺させているにすぎないのだろう・・・
そうしてあの感情が再びざわめき始めている・・
アンドレア、ああアンドレア、私は何をしているというの
そうして唇を噛んでいると、前に座っているGSG-9の男が微笑みかけてきた、その漆黒の顔に歯だけは白く光って見える・・・
咄嗟に身を堅くしたが、その笑顔には下心は感じられない、闘いに向かう戦友のような意識の表れだろうが、覚悟と恐怖が入り混じっているのだろう・・
そう理解して微笑み返して、横に腰を落ち着けているタキオンに身を寄せると、彼は手を腰に回して来た。
とても気を使っての行為に思えはしない、おそらく危険に対する予感が、生存本能を増していて、それが拭いきれないでいるのだろうが、それに応えるつもりなどない、それとも神経が過敏になりすぎて、過剰に反応しすぎているのかもしれないが、けばけばしいバタン鳥と黒豹くらいにこの男とは釣り合わなく思える・・・
それならグレッグとはどうだろうか・・・
そんなことはアンドレアが望まないのではないだろうか・・・

心の小部屋の奥にしまったはずの、感情というものがざわざわと波打ち、そうして囁いている、
生きていなければいい、戻ってこなければいいのに、と・・・