手繰られしものたち
ヴィクター・ミラン
唄にも例えがあるように、マクヒースにジャックナイフとくりゃ、
マッキー・メッサーにゃ隠し玉がある、容易に見せない切り札さ・・・
ディーゼルfarts（屁：排気）でCool Airすました大気をBlowing切り裂いて
Kurfurstendamm クアフュルステンダムからカメラ屋へと、口笛
だけを後にして、拳をジャケのポッケに突っ込んで、ドアをシュツと開け
放つ、そうして辺りを見回すと、カメラの黒いガラスの目、
カウンターにゃ光が踊り、肌身の下には感じる光のハミング、
それでも胸にはむかむかくる、
綺麗で染み一つないとくりゃ、医者のオフィスを思わせる、
医者はどうにも虫がすかない、今に始まったことじゃない、
ハンブルグの法廷が、いかれていると言い張って、１３の
俺らを陸の孤島、精神病連に放り込んだ、そこにゃチロル
の豚がいて、酒とガーリック臭い息を吐き、邪険に俺らを
扱った。
エースを引き当て、笑顔でそっからおさらばしたが・・
カウンターの上の書架にゃBerliner Zeitungベアリナー・ツァイ
トゥンク紙、
＜ワイルドカードツアー、Visit Wallヴィジットウォールに＞の
見出しが躍ってる
Oh yeah oh yeah （しめしめこいつはいい）思わず俺らは薄笑い
そいつを押し込め真顔に戻る、店の奥からDieterディエタが出てきたからな
「マッキー、早いじゃないか・・」
その暗い薄い髪からはてかてかのオイルの匂い。
肩にしこたまパッドの入った青いスーツ、薄い虹色のタイに、
かすかに振動する上唇のみの声ときた。
鮫のようだと言われてる、冷めた感情のこもらない、まるで青いMarbleおはじきの
ような灰色の目で、そいつを見つめながら突っ立って
「俺はだな、わかるだろ、こいつで写し取っていただけなんだぜ」
そう言いながらカメラに手をのたくらせてやがる、辺りにはネオン管や褐色の
女の歯がやけにまぶしいポスターが散りばめられ、その人造の光の中でのたうつ
奴の手はまるで死んだ魚の腹のよう、やけになまっちろいときた。
「ブルジョワどもの疑いを逸らすにゃまず見た目からだぜ、とくに今日みたいな
日にゃなおさらさ」
そう喋りながらも俺から目を逸らそうとしてやがるが、やつが立ってる部屋が傾いて
でもいるように結局視線は戻ってくる。
エースったって見栄えがよくなるわけじゃねぇ・・・
たしか１７にゃなってるはずだが・・・えらく幼く見られる。
肌はかさかさでParchment卒業証書のように乾いてる・・・
背も１７０センチ以上はありゃしねぇ、ディエタにくらべりゃ骨と皮だけ・・・
身体は捻じくれよたよたするわ、着てる黒の皮ジャケットときたら、ディエタは
とうにご存知ながら、肩の斜めに入ってたグレーのラインが擦り切れてやがる、ジーンズに
到っては、Dahlemダーレムのゴミ箱からつまみ出してきた代物だから相当くたびれ
ちまって・・・
ペアのオランダ木靴に、マルティールで描かれたエル・グレコ（ひょろ長い顔をかくことで
知られている画家）のような顔に、わらのような髪がまばらに突き立ってるときたものだ。
「それにしても、俺にゃちと早すぎる時間だがね」それはへまな一言だった。
俺は素早く動き、そのぎらつくタイに手をかけ、そいつを引っ張り引き寄せる。
「俺にゃ遅すぎるくらいさ、そうさ、遅すぎるってもんだ」
そいつの顔色は青白いくせにぎらついてる、ラミネートされた紙のよう、
次第にZeitung新聞紙のように黒ずんでいく。
あれはブダペストのカーブをBlowing攻めてたときだ、あの夜俺はやつの手が何をしたか
見ちまったんだ。
「マ、マッキー・・」あえぎながら、薄く赤黒い手を掴んでかろうじてそう口走った。
そして気を静めることに成功したらしく、皮のすそを親しげにポンポン叩くしぐさの後、
言い募ろうとしたんだぜ。
「おい、おい兄弟、こりゃいったい何の真似だ」
「俺たちを売ろうとしただろ、このMotherfucker（下衆野郎）」
さすがに腹に据えかねて、やつの髭剃り跡に唾を吹き付ける勢いでそう叫び返してた。
そこでやつは頬をひきつらせつつもなおしらを切ろうとしやがった。
「何の話だね、マッキーおれはけして・・・」
「ケリーさ、あのオーストラリアの売女さ、ウルフがあやしいとかぎつけてずっと張ってたんだ・・」
そこで凍りつくような笑顔とともにダメ押しを・・
「Bundeskriminalamtドイツ連邦刑事局(通称BKA：ベー・カー・アー)にゃたどりつけなかっただろうぜ、
今頃肉のしみとかしてることだろうな」
舌打ちしつつさらに言い逃れようとしやがる・・
「聞いてくれ、あんた勘違いをしてるんだ、俺は関係ない、あの娘はとりまきのひとりにすぎ・・」
そういい終えないうちに、レジの下から光るもの、黒いいびつなリボルバーを覗かせやがった。
俺は左手を振動させ、電動ノコの刃のように動かし、上半分、シリンダーからカートリッジまで削ぎ落とし、
ついでにトリガーの一部も切り裂き人差し指を一センチほど削っておいた。
さぞや撃鉄はまぬけな音を発したことだろう、半分に断ち割られたシリンダーの断面が銀細工のような輝き
を発していて、取りこぼされたそいつがカウンターのガラスを砕いたのさ。
そこで俺はやつの顔面を掴み上げたら、両手をだらりとぶら下げて、かなきり声で悲鳴をあげやがった。
ガラスの破片が青いコートの裾とその下の青いフレンチシャツを切り裂いて、その下に鉤爪のごとく
食い込んだ。
Zeissツァイスのレンズに、Chauvinism排斥運動や高い関税をかいくぐりFederal Republicドイツに
輸入された日本のカメラの上にやつの血が滴ってる、おそらくもはや売り物にゃなるまい。
「仲間だろ、どうして、なぜなんだ？」
細身を怒りの炎にくゆらせて、振動は高まる。
目には溢るる涙、振動は旋律を奏で、
ディエタの悲鳴と重なっていく。
手には剃り忘れた髭の感触、もはや整えられることもない。
そしててかてかの髪に入っていくひび。
「何を言ってるんだ」叫ぶ「そんなつもりはなかった、ちょっと付き合っただけ・・」
「嘘だ」そう叫び返してた。
破裂せんばかりの怒りが、振動をさらに強めていく。
ブーンという唸りが高鳴り、さらに高まっていく。
やつは手脚をばたつかせ、頬の肉が千切れるまで咆哮してた。
そこでさらに強く握り締め、頬の骨を掴み上げ、骨から脳の湿った領域にまで
振動を叩き込む。
奴の目はひっくり返り、舌は飛び出し、頭蓋の中の体液を沸騰させ、そうして
破裂した。
そこでようやくやつを放し、頬と髪までつながって吹き上がる炎に目をふさがれたような感覚に
もだえながら咆哮してた。
そこでようやく視界が開け、カウンターに回って、まだ痙攣している身体に蹴りを入れたら、リノリウム版の上を滑っていきやがった。
レジの画面は、橙のエラーメッセージが点滅していて、ディスプレイケースには夥しい血で染められていて、ところかまわずグレイがかった黄色い代物、やつの脳漿が飛び散ってる。
俺はジャケットを脱ぎ、叫びながら手についたそれを払おうとして・・
「You Bastard（くそ野郎が）」
首のない死体にさらに蹴りを入れつつ悪態を重ねた。
「貴様のせいでこのざまだ、Asshole（くそったれ）、asshole（このくそったれ）、Asshole（くそったれが）
」
そこで屈んで、やつのコートのすそをつまみ上げ、そいつで顔と、皮ジャケット、そして手を拭う。
「ああディエタ、ディエタよ」すすり泣きつつ言葉を重ねる。
「話し合えたらよかったのによぉ、まったくSon of a bitch（まぬけ野郎）だぜ」
そう話しかけて冷え切った手をとり、それに口付けしてから、そっと汚れた胸元に重ね合わせてから、そのJohn（顔なし）に駆け寄って、できるだけ綺麗にしようと試みた。
そうこうしているうちに、怒りも悲しみもすぅっと消えうせ、おかしな高揚のみが残った。
ディエタはガラスとFuck（やろうと）して、その報いを受けやがったんだ。
なぜそんなことをしようとしたかなんて俺の知ったこっちゃないがな、
それにたとえ意味があったとして、俺に何のかかわりがあろうか、
俺は不死身のエース、実態を持ったマクヒースそのものなんだぜ、
Cocksuckers取り巻きどもが俺を囲むのも時間の問題だろうが・・・
ガラスのドアが口を開け、そこに入ってく誰かの笑顔、映し出された
おれ自身の笑顔,
そう身体の位相を変化させ、壁をひょいとすり抜けた・・・
（俺らを阻めるものなどは、どこにもありはしないのさ）
