ワイルドカード4巻「ザヴィア・デズモンドの日誌」Ⅷその2後編

ザヴィア・デズモンドの日誌
             G・R・R・マーティン

ハイラム・ワーチェスターが約束を果たし戻ってきました。
ロンドン経由でコンコルドを乗り継いで来たのだとか・・
ニューヨークでの滞在は、だいぶ彼の気分をよくしたようであり、
以前の元気をも取り戻したようで、遠出に参加していたタキオン
にモーデカイ・ジョーンズ、ファンタシーを誘って、カルカッタ
で一番評判のVindalooヴィンダルー(香辛料で炒めた肉料理)
がどれか確かめに出かけたのでした。
ペレも誘ってはいたようですが、気分が悪いということで辞退された
とのことでした・・・・

次の朝、ファザー・スキッド(烏賊神父)にトロール、そして私の
三人でガンジス川に向かいました。
そこの水を浴びたジョーカーが、その苦難から救われた伝説がある
というのです・・・
ガイドがいうには、何百件もの奇跡の記録があるとのことでしたが、
わたしには眉唾ものにしか思えはしませんでした・・・
ファザー・スキッドが言うには、ルルドの泉同様ジョーカーの奇跡
的治癒があったのだろう、とのことでした・・・
その神聖なる水に跳びこむ誘惑に抗いきれなかったのです・・
癌に蝕まれた人間には、もはや懐疑主義に浸っているゆとりなどあり
はしません・・・

クリサリスも誘われたとのことですが、断って、ホテルのバーで
アマレットをたしなみ、ソリテールを繰り返し、快適に過ごした
とのことでした。

そういえばクリサリスは二人の報道員、セーラ・モーゲンスターン
とあのどこにでも顔をつっこむディガー・ダウンズと親しくなり、
ディガーに及んでは二人寝を楽しんだと噂にすらなっているのだ
とか・・・

ガンジスから戻った今だから言うのですが、靴を脱ぎ、靴下を外し、
ズボンをまくりあげ、脚をその神聖な水に浸してみましたが・・・
悲しむべきかな、そこには脚を濡らしたジョーカーの姿が変わらず
あるだけでした・・・

神聖であるはずの水は世俗のごとく薄汚れ、その奇跡を期待した男は
靴下を盗まれた姿をさらし、間抜けに立ち尽くすしかありはしなかった
のですから・・・