ワイルドカード4巻「零(ゼロ)の刻 その1

            零(ゼロ)の刻

                      ルイス・シャイナー

ショーウィンドー内には忌々しいことに同じチャンネルに合わされたTVが、御丁寧にピラミッド状に積みあがっているときたものだ。
そこに映し出されているのは、Naritaナリタ・空港に到着した747型機。
画面はスパンしてディフォルメされたタキオンと英語で「Stacked Deckスタックド・デッキ(多層デッキ号)」と字幕の付いた、同じくディフォルメされたジェット機のイラストを前に掲げたアナウンサーに変わって、それをフォーチュネートが見ているというのも奇妙な構図といえよう。
空は次第に暗み始めて、文字をかたどったネオンライトが、Ginza銀座の夜を赤と黄色、そして青い炎で染め上げている。
ガラス越しでは音は伝わりはしない、光のみが瞬き、ハートマンにクリサリス、ジャック・ブローンといった姿を映し出すのをなすすべもなく見守るしかなかった。
そして次に映し出されるのはペレグリン、その確信めいた予感は、瞬く間に現実のものとなり、微かに開かれた唇、視線の動きにあわせてなびく髪は、まるで翼のごとくはためいているではないか、ワイルドカード能力が発現したわけではない、ただ彼が恐れるもの、過去の残滓を幽鬼のごとく、映し出したにすぎない。
買っておいたJapanese Timesジャパニーズ・タイム、Tokyo東京における最も著名な英字新聞だ、に目をやると、1面のカラー写真に<Ace invade Japanエース 日本上陸、侵略や否や>という見出しが躍っている。
そうこうしているうちに、Business Suit背広を着て、AutoPilotカメラを抱えた連中、主に男だ、が群がってきた。
痩せて背の高い異国の男が珍しいと見える、しきりに驚いた様子で、何やらめくばせをし合っているではないか。
ここ日本では半分Kokujinコクジンの血が流れていれば、半分は日本人といっても物珍しいことに変わりはないとみえる。
最も他の国では白くない肌は排斥の対象となるのに比べれば、これでもましと言えるだろう。
改装したばかりのImperial Hotel帝国ホテルに一行が滞在しているとも紙面にしたためられている。
ここからわずか数ブロックの場所だが、<ムハンマドが動けば、望まなくとも、山すら動く(薮蛇)>、ともいう、まずは風呂にでもいって、落ち着くとしよう、それには丁度よい頃合だろうから・・・