「零の刻」その11

            零(ゼロ)の刻


                      ルイス・シャイナー


ロビーでハイラムを呼び止めたが、「出よう」と返された。
「一端出るとしよう」
「何かまずいことでも」
「単に場所を変えたいだけさ」
そこでタクシーを呼びとめ、灰色のアカサカシャンピアに戻っていた・・・
「何かあったのか?」
「まぁ見てくれ」
ハイラムの部屋はひどい有様だったが、今はそれに輪をかけたようなことになっている。
壁にはシェーヴィングクリームが飛び散り、ドレッサーの引き出しが、隅に放り投げられ、
鏡は砕け、マットレスがずたずたに切り裂かれている・・・
「あそこにずっといた以上、起こったことは見えてしかるべきだったのに・・・」
「何を言ってるんだ?何か見たんじゃないのか?」
ハイラムの目が痛みを湛えて細められた。
「今朝は9時にバスルームに行って水を一杯入れてきて、ここに戻ってきてTVをつけた、そのときまでは何事も起こっていなかった、それから30分後くらいにドアがばたばたいうような音だけを耳にして、顔を上げたらご覧のようなありさまになっていた、そしてこのメモが残されていたんだ」
そのメモは英語で書かれていた。
<零時(ゼロの刻)には明日となり、Zeroman(ゼロの男)至り、安らかに死がもたらされる>
「これはエースの仕業だな」
「またこんなことが起こるのだろうか?」
その言葉には信じられないといった思いが強くこめられていた・・・
「そうならないようにすればいい、新しい服を買って、10時くらいまでは外で時間を潰し、
最初に会ったホテルで部屋をとって、それからどこにいるかをペレに連絡したらいい・・」
「あの人には・・このことを話したのですか?」
「いいや、ただ金銭上のトラブル、とだけ伝えてある、それだけだよ」
「恩にきるよ、フォーチュネイト、私は・・」
「気にするな」とだけ返し、さらに言葉を重ねていた・・
「ともかくここにいちゃいけない」と・・・