ワイルドカード「綾なす憎悪」パート5その8

                綾なす憎悪

                        パート5

                 スティーブン・リー



「さよう・・さぞや見ものであろうな」
これがそうなの・・・
あらゆることが頬をはるように感じられた。
言葉だけではない、礫殺されたジョーカーに、タキオンに対する仕打ち、
そういった行動、傲慢さをみせつけようとするナジブには怖気すら禁じえない。
ダマスカスに行けたのも表敬といったものではなかったのだ、彼らを誘き寄せる
ためであって、わたしの警告をだしぬくつもりぐらいしかありはしなかった、
理解する道など完全にとざされてしまったではないか、そうしてサィードと二人で
舌を出し、したり顔と偽りの言葉で利用してのけたにすぎなかったのだ。
己の中で不安と、そして絶望がじわじわと膨れ上がっていくのが感じられる。
アッラーへの信仰とはなんなのだ、ナジブの語るアッラーの言葉は
別の顔を持ってしまったのではあるまいか、これがアッラーの意思だと・・・

疑いはやみがたく、ナジブの魔力すら凌駕している、
言葉が迸り、ナジブのそれを遮ってすらいたのだ。
「ことをいそぎすぎましたね」蛇のたてるがごとき声が漏れ出ていた。
「肥大化したプライドはあなた自身のみならず皆も滅びにいざなう、といったはずですよ」
己の言葉が遮られたことで、輝く面がゆがみはしたが、言葉でそれを覆い隠そうとした。
預言者たるはのみ」そして決定的な一言をついに口にしてしまったのだ。
「姉よ、そなたではない」
「ならば預言者として耳を貸すがよい、アッラーの言葉に語られし未来の言葉を・・
これは過ちである、御心より外れしものなり、と・・」
「黙れ!」言葉が咆哮となって迸り、拳がそのあとを追って襲い掛かり、
目の前に真っ赤な幕がかかってすべてが見えなくなった。
それだけでない、その痛みによってナジブの声は完全に効力を失った。
内にとどめられていた禍々しいもの、目をそらし、慣習や倫理という名の、
薄いレースによって覆われてきた黒い猛毒とでもいうべきもの、
ナジブによる侮辱に虐待、ありとあらゆるもの、それが蓄えられた心の
奥底の深き淵より、とどめる障壁を失ってあふれ出してきた。
ナジブはその沈黙をとりなそうとする意思と早合点したらしい、
わたしから視線をそらし、皆を拘束する力を再びふるいはじめたが、
もはやわたしを縛るものではない・・・
内なる声はやみがたく、抗うすべなどありはしない・・
サッシュに小柄を忍ばせて、
声無き声を上げていた・・
なすべきことはわかっている・・
あの胸に飛び込めばよいのだ・・