ワイルドカード5巻「不滅ならざるもの」その7

最初に視界に飛び込んできたのはブラウン管が破裂して、ちぎれたコードがウサギの耳のようにぶらさがっているTV、そして部屋の真ん中にはマットレスの乗せられたシーツのない簡易ベッドと、安手の家具が部屋を手狭にしているのが見てとれる。
アンドロイドは用心のため、非実体化したまま部屋の真ん中でじっとしていると、奥の部屋から会話がもれ聞こえてきたため、声の方向に武装のターゲットをロックし、聞き耳を立てることにした。
「何かがガラスを割ったんだ」熱のこもった早口の声だ。
「きっと何かが起こってるんだ」
ソニックブームだろ」それに答えた声は深く落ち着いた調子を帯びていた。
「棚のコップはどうなんだ」
カップの坊やがソニックブーム(音波のビート)で棚から踊りだしたんじゃないの」諭すような言葉に早口の言葉がかぶさるように重なっていった。
ソニックブームじゃない、誰かが棚から落としたんだ、ニューヨークではそれができるやつはうようよしているから」
二人の男がキッチンにいて、小さい冷蔵庫をさぐって、牛乳とオレンジジュースを取り出すのを、モジュラーマンはホヴァーリングしつつ、ドアの影でうかがうと、近い
方の男は、青いジーンズとリーヴァイスのジャケットに身を包んだ若く、暗い髪の色をした映画スターを思わせるハンサムな男で、その手にジュースの容器をつかんでいるのが見て取れる。
もう一人は、痩せぎすで、青白い肌をしたナーバスな様子のピンク色の目をした男だ。
「どちらがクロイド・クレンスンなのですか」
アンドロイドが直接声をかけてみると。
ピンクの目をした男が金切り声とともに答えた。
「あんた、吹き飛んだだろ」
そう叫びながら、残像の残るすばやさで、リーヴァイスのジャケットから銃を引き抜いて見せた。