ワイルドカード4巻第9章 その3

        From the journal of Xavier Desmond

            〜 ザビア・デズモンドの日誌より 〜

                G.R.R.マーティン

       1986年12月15日 リマへの途上、そしてペルー

グァテマラとマヤにおいてずっとこころをとらえていたことは、彼らの理想的ともいえる革命が、2人のエースと、一人のナット主導によって行われたということで、いくらジョーカーが神から祝福のくちづけを受けたとしても、エースに従って、あとについていくだけの存在にすぎないのではないのか、そんなふうに思えてなりません。

そういえば数日前に、ディガー・ダウンズがパナマ運河滞在の折に、アメリカにジョーカーの大統領が誕生したらどうなるだろう、と声をかけてきたことがありました。
そこでわたしは、まずジョーカーの下院議員(ジョーカータウンをも管轄するネーサン・ルビノウィッツが、その失言から非難にさらされているという実情は悲しむべきことながら)誕生からだろうね、と答えておきました。
もちろんその言葉の裏には、エースが大統領になったら、という興味深い仮定が潜んでいることをわたしは見逃しませんでした。
ダウンズという男は、いつも眠たげな瞳をしていながら、見た目以上にきれる男であるというのは認めざるをえないでしょう。
もちろんスタックド・デッキに搭乗した他の記者、APのヘルマンや、ワシントン・ポストのモーゲンスターンほどでないにしてもです。
今年のワイルドカード記念日以前に、ダウンズとその可能性について話し合ったことがありました。
たとえば・・・タートル(依然として生存は確認されていませんが)にペレグリン、サイクロンといった、いわば一級のセレブが、社会に対し口を出したとしたら、どれほどの影響力を持つだろうか、そして大統領候補になったとしたら誰が生き残るだろうか、などという可能性についてですが、もちろんヒーロー崇拝などというものは、必需品ではあっても、移ろいやすいものであり、容易に答えの出せるものではないことはわきまえておりますが、私とダウンズの議論を立って聞いていたブローンが、ワイルドカードウィルスが撒布されたことで多くの犠牲者がでたが、大統領候補にはなるということは希望となりうるという結論を出そうとした時に口をはさんできました。
「そんなことになったら滅茶苦茶なことになるだけだ」と。
「支持は得られるんじゃないかな?」そう口を尖らせて反論したディガーでしたが、ブローンの答えは皮肉に満ちたものでした。
「もちろんフォーエイシィズ程度には愛され、支持されるだろうな」
そのブローンはといえば、視察の始まった当初は、距離をおいて扱われていましたが、タキオンは存在を認識しようとせず、ハイラムはかなり慇懃に接するままとはいえ、他のものはそんなことは構わず接し始めたようでした。
パナマにおいては、彼はファンタシーにつきそっており、リオン上院議員の、若く魅力的なプレス秘書との浮名が流れたほどで、ブローンは男性エースの中ではその豊かな話術でもって、人となりに関係なく最も魅力的な存在となりおおせているのは疑いようのないようです。
そのうえダウンズの話によれば、モーデカイ・ジョーンズと間で恋の鞘当が囁かれているとのことで、次のエースィズ誌は、ゴールデンボーイ対ハーレムハマーの見出しでいく、と息巻いていましたが・・・