ワイルドカード5巻第10章その1

              おうさまのおうまも・・・Ⅳ

                G.R.R.マーティン



「マスクがいる」
尊大げなファラオのデスマスクを被った背が高く、痩せぎすな店員が、
その声に反応して目を上げて応えた。
「さようでございましょうとも」
その店員の目は、仮面の色同様、金色だった。
「なにか特別なご要望はございますか?」
「でどんなのがあるんだい?」
顔を隠すだけなら、ジョーカータウンの駄菓子屋にでも駆け込めば、2ドルも
出さずにちんけなプラスティックの仮面が買えるだろう、ここジョーカータウン
ではちんけなマスクを着けているということは、ちんけなスーツを着ているのと
同じ意味合いを持つ、だから決意の深さを表すために、ニューヨークマガジン
で、もっとも格式のあるマスクショップと紹介されたホルブルックを選んだのだ。
「よろしゅうございましょうか?」メジャーを持ち出してきた店員にうなづいて答え
つつ、壁に掛けられた手の込んだトライバルマスクを眺めながら、頭を測らせる
にまかせた。
「しばしお待ちを」そう言い残して、店員はヴェルベットのカーテンの向こうにある
奥の部屋に消えていった。
わずか数分のことだったが、一人で店内に取り残され、灯りも薄暗く勿体ぶって
思え、せまさもあいまって、妙に居心地が悪く感じる。
その後、おおよそ半ダースの箱を小脇に抱えて戻ってきた店員は、トムの前の
カウンターに様々なマスクをひろげてみせた。
その中の一つ、丸めた黒い紙片にくるまれたライオンのマスクが目に付いた。
顔の部分には柔らかい皮がはられ、触り心地はスウェードのようで、五月雨の
ごとく垂らされた黄金の髪で彩られている。
「百獣の王はお気に召しませんか?」店員がくちばしを突っ込んできた。
「たてがみの房々に到るまで本物を使用した上物です、これは失礼いたしました、
めがねをかけておいでですね。
もしお許し願えるのでしたら当ホルブルックでは、よりフィットした特別あつらえの
アイピースをおつけすることもできます」
「中々いいね」指で髪を弄びながら尋ねた。
「でいかほどだい?」
店員は落ち着き払って応えた。
アイピースといったオプション抜きですと1200ドルといったところで」
丁重な口調ながら、ファラオの面の奥の黄金の瞳が輝きを増し、面白がっている
ように思えてならなかった。
そうして言葉を失ったまま、きびすを返してホルブルックを後にした。
結局正面に新聞立てが、奥にはソーダ売りの機械があるバワリーの店に行き、
そこで6ドル97セントのゴム製カエルマスクを購入した。
いささか大きすぎる代物で、めがねをかけたままでないと収まりが悪く、両側の
巨大な耳でかろうじてバランスがとれているという代物だった。

これでいいのだ、どんなものであろうとも、感傷くらいはひたれるだろうから・・・