ワイルドカード4巻第19章[zero hour]その1

ゼロ・アワー<ZERO HOUR>
ルイス・シャイナー<Lewis Shiner>

ショーウインドゥにピラミッド状に積み上げられたTVは、全て同じチャンネルに合わせてあり、そこには成田空港に降り立った747機が映し出されている、そしてその映像はディフォルメされたタキオンジェット機のイラスト、その下には《stacked deck(多層デッキ)号》というキャプションが添えられたものに切り替わる。
フォーチュネートは店の前で足を止めそれを眺めた。
次第に暗くなりゆく銀座の空を、赤や青、黄色といった様々なネオンが彩り、燃え立つようにさえ思える。彼がみつめるウィンドーの中では、ガラス越しで音は聞こえないが、ハートマンにクリサリス、ジャック・ブローンの写真が映し出されており、否応無しに目に飛び込んできた、次はペレグリンが映し出される、彼女の映像の出る数瞬前にすでにそれがわかった。ワイルドカード能力を使うまでもない、それは予感めいたものであり、彼女が映し出されるのを恐れてすらいたのだった。
別れた時の半ば開かれた彼女の唇、髪がなびいておこる風、そういったイメージの数々が幽鬼のごとく思い起こされ、奇妙に画面の映像に重なっていく。
最も著名な英字新聞として購入していた<ジャパン・タイムス>に目を通す、<エース日本を侵略か>の見出しで、スーツに身を包み、カメラを抱えた男達が群がる様子の写し出されたカラー写真が目を引いた。
彼を一目見たものは、やせた長身と異国の情緒にショックを受け、まじまじと見つめたのちに目をそらす、そこで彼は自分が日本人の血を引いていることを説明すると、Kokujinコクジンの血をひいているのにもかかわらず、さして気にならなくなるようで、他の国では白人でないことは罪悪とされていることが多いがこの国ではそういうことはないらしい。
その記事によるとタキオン一行は、改築されたインペリアルホテルに滞在するであろうと書かれしめくくられている。ここから数ブロックも離れていない。
マホメッドは山から降りてきたというが、それは彼が望んでのことであったろうか、そんな考えとイメージが頭をよぎるも、ともあれそろそろ入浴には良い時間だろう。