ワイルドカード4巻「夢の中へ」その1

             Down in the dreamtime
                夢の中へ
               エドワード・ブライアント

ここにきてようやく、頻繁に見ていた人の殺される夢を、あまり見なくなっていた・・・
そんなことを考えていることに驚いてすらいる、それも悪くないことのように思える・・・
なにしろ忙しかったのだ・・・
Global Fun of(実際は<B>を逆にしたような記号) Gamesと提携しての、ザヴィア・デズモンドのファンハウスにおける5月に予定されているAIDS/WCV慈善公演の準備は数日に渡り、夜遅くまでかかるのもざらであったのだから・・・
11時のニュースの終わる頃に寝に戻って、朝5時には起きだして仕事をしているのだから、気晴らしをする暇すらありはしない・・・
それでも時折悪夢は見ていた・・・
そう14番街区の駅を出て、薄汚れたコンクリートにヒールの音を響かせていると、騒音を発し行き交う人々、路上の隙間から声が漏れ聞こえてくる・・・
「姉さん、財布をよこしな」そちらに行こうとしながら、恐怖に立ち尽くしていると・・・
オージー(オーストラリア)訛りの声がそこに割り込んできた。
「よう兄弟、何か問題でも?」
コーディリア・チェイスンが熱のこもった吹き溜まりにかけつけてみると、プライ材のみ残った壊れたニューススタンドの残骸と電話機の間に、ハンドバッグを掴み、けたたましく吼えたけっているプードルを抱きしめている中高年の女性が追い込まれ、ばさばさな髪をした若者二人に囲まれているのが見て取れた・・・
陽は照りつけ、オージー訛りの男が若者二人を見下ろしているかたちにはなっていたが、Banana Republicアングロサクソンの農民を思わせる砂色の服装で、片手でナイフを弄び、「問題があるのか?」と繰り返すと・・・
「問題はねぇさ、間抜け野郎」
そう言い放った若者の一人が、バレルの短いピストルをジャケットから抜き出して、オージー男の鼻先で一撃をくらわしたのだ・・・
それはあまりにも突然のことで、コーディリアにはどうしようもなかった・・・
そうして男が倒れると、若者二人は逃げ去り、プードルを連れた女性が叫び、犬の声と奇妙に溶け合わさった・・・
コーディリアは屈んで、倒れた男の首筋に手を
触れた、まだ息はあるようだ・・・
とはいえもはやCPR緊急救命を呼んでも間に合いはしないだろう・・・
血溜りから目を背けても、鉄を思わせるその匂いに対する悪寒は拭いがたい・・・
そうしていると、数ブロックと離れていない距離から、サイレンの響きが呻くように響いてきて・・・
「財布はまだ大丈夫だわ」と女性が叫び・・・
男の身体が痙攣して、息を引き取った・・・
Shit(なんてこと)」コーディリアはそう呻いて、力なく立ち尽くすしかなかった、何もできはしなかったのだ・・・