恐怖の感情が高まっている。
癌のようなしこりとなって、
黒く曖昧な感情が脳の奥に
広がるように感じられ・・
心臓が脈打ち、肋骨がその
脈動で振動するようにすら
感じられる・・・
喉は渇き、ひりひり痛み・・
頬は焼け付き、斎場の火炎を
のぞいているかのよう・・・
口には血の苦味が満ちている。
ここから出るのだ・・・
どうなろうと係わりのないことなのだ・・
どうなろうとも・・・駄目だ、内で叫ぶ声がある
ここにいて事態を見据えることが任務として優先される
そのとき瞼の奥に娘の姿が蘇った、ルドミーヤは瓦礫に覆われたビルで座し、その瞳は溶けて閉じられ、その頬は水ぶくれをおこしている・・・
そうして囁いた
ここは危険なのよ、ヴァレンティン・ニコライヴィッチ
そうして別の声が響いてきた・・・
この子の成長を見守ることこそが優先されるべきではないのかな
「そうとも」乾いた喉から思わず声を搾り出し、答えていた。
「行かなくては」
ウルフが怪訝な顔をしている。
だが言葉を出した後には、モルニヤの口は笑みを浮かべていた・・・
疑うべきもなく状況は完全に手繰られている
上首尾だ、己の意思だと考えている、あとはここから出るよう促すだけでいい
そこでマッキーがドアの前に立ち塞がった、
マッキー・メッサーの瞳には大粒の涙が溢れているではないか・・・
だがモルニヤはその強い感情が怖ろしく、棘のように感じられ、グローブをはめた手で振り払っていながらも、なぜかこの少年が己に危害を加えないことはわかっていた。
そこでもごもごと謝罪を口にしたような気もするがともかく振り切って外に出た・・・
背後で閉まるドアの音とともにすすり泣くような響きを耳にしたような気もしたが、かまいはしなかった・・・
その響きは己を闇に引きずり込む、そう思えてならなかったのだ・・・
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One of better performancesこれでいい(<唯一の善行>とも訳せる
のが皮肉な話ですが)、一人舞台を降りた、臆病者が退場したのだ・・・