「手繰られしものたち」その36完結

          手繰られしものたち
                 ヴィクター・ミラン


グレッグ・ハートマン上院議員はドアを開け放った。
ドアのガラスはすべて砕け散っている。
その鋼鉄のフレームにもたれ冷たい感触を味わいながら、道に目を凝らすと、
大破した車に割れたアスファルトの間から雑草が顔を覗かせているのがうかがえる。
反対の建物から白い光が照射され、その光はレーザーのように思われ、瞬きをせねば
ならなかった。
「My God(おい見ろよ)」ドイツ語の声が被さってきた「上院議員だ」
路上は車に渦をなす光、そして騒音で満ちていた。
タキオンの髪に光が当たって、マゼンダの輝きを放つさまや、カーニフェックスのコミックから
抜け出たような扮装を目にすると何も時間がたっていないように思えるが、ドアの向こう、車の残骸の影には、自動小銃を構えて警戒している人々の姿が見て取れる。
そういったいかめしい人々を意識から締め出すと、ようやくセイラの姿が知覚できた。
その白いコート姿は灰色の世界から際立って思える。
「やぁ・・出てこれたよ」それはドアが軋むような擦れた声だった「終わったよ、連中は・・殺しあってくれたからね・・」
そこで白いミルクを思わせるテレビ局のスポットライトが浴びせられ、その光に埋没したセイラに微笑みを投げかけた、だがその瞳は冷たく堅いものであり、それは鋼鉄の棒のように感じられ、グレッグの感覚を打ち据えた。
もはや零れ落ちている その感情は痛みを伴っていた。
パペットマンは痛みを和らげるべく動いてくれた、そうしてあの人は私に手を広げて駆け寄って、何やら愛の言葉を囁いているが、その口は空虚に空いた赤い穴にしか感じられはしない。
そうしてパペットが首に手を回し、涙で襟を塗らした。
そうしてパペットマンは微笑んでいる。
己の半身は確かに私をすくってくれたが、その存在が苦々しく思えてならない。
彼の用意した舞台には光がささない、暖かさもない、ただ虚ろなだけなのだ・・・