「零の刻」その14

            零(ゼロ)の刻

                      ルイス・シャイナー


それは10時を少しすぎたころだった、バーニー・インに入ると、ちょうどキッチンからミーガンと名乗ったウェイトレスが出てきたところだった・・・
フォーチュネイトを目にするなり、息を飲んで、ミートパイの乗ったトレイをおいてにげだそうとすらした・・・
膨らんだ額に驚いたというのもあるだろう、己で見ることは適わないが、額が膨らんでいることは見なくともわかる、力が再びRasaラサとなって満たされているのだ・・・
駆け寄ると「帰って・・話すことなど何もない」という言葉を浴びせられたが、かまわず「クラブのことだ」と言葉を重ねた。
「アヒルの看板の掲げられた店だ、どこか知っているのだろう」
「いいえ、私は何も・・」
「どこか話すのだ」そう命令すると、
顔から感情をけして話し始めた。
「ロッポンギを過ぎて、警察署を右に曲がり、ツーブロック進んでから左に半ブロック進んだところ、そこにタカハシサンの経営するバーがあります」
「何と言う名で、どこに組しているんだ?」
「名前はありません、Yakヤク(ヤクザを省略している?)のたまり場ですが、ヤマグチグミ系ではなく、もっと小さな組のようです」
「ならばなぜ奴らを恐れる?」
「彼らには、ニンジャという闇の戦士がいて、その内の一人は、あなたがたのいうところのエースだと囁かれているのです」そう答えてフォーチュネイトの額に視線を向けて言葉を継いだ
「あなたのような、ね。聞いた話によれば百人をも殺しているにも係わらず、誰もその姿を見ていないとか、今ここにいないとしても、遅かれ早かれ話した私は消されることになるでしょう」
「それはあるまい」フォーチュネイトは請け負って答えた。
「彼らが私に会いたがっているのだから、これは彼ら自身の意思にそうことなのだ・・」と・・・