ワイルドカード5巻第1章第6節

             死がいこう町・・・その名はジョーカータウン

                     ジョン・J・ミラー

応接間に通されると、そこではすでに、フェードアウトにシュー・マ、デッドヘッドが顔を突き合わせていて、デッドヘッドが、名前や住所、電話番号、政府との癒着といったことを呟き続けている。
すべてコヴェロの脳に蓄えられていた情報であり、今はデッドヘッドのものとなった、ドンのみが知り得る情報だ。
そこで妙な感慨にブレナンは包まれた。
知りすぎたものを死に招かれる、ゆえに全てを知るは死者のみ、余計なことをそれ以上知る必要のない死者は揺ぎ無き安息を得る、それはここジョーカータウンにおいても例外はなく、コヴェロも例外ではなかったはずなのだ。
山中にあったときは、変わりなき平穏と、死のごとき静寂があったが、そこから離れ、生者の世界に舞い戻ったとき、確かに感じられたものは崩れ落ち、己を制御する術すら蝕まれ失われたかのように思える、それが生者の世界に生きる代償なのかもしれない、だとしたらその代償はあまりにも大きく、そうして生者の道を歩むことなど望むべくもないことなどわかっているというのに・・・
ブレナンが一人で入ってくると、フェードアウトとシュー・マは困惑した視線をお互いに交わしたのち、フェードアウトが口を開いた。
「何があった?」
待ち伏せされたんだ、いかれたヨーマンのくそ野郎が、ウィスカーズとワーウルフの連中をばらして、俺の手を壁に射止めやがったんだ」
そう答えつつ、シャツを破いてしつらえた血染めのぼろきれに包まれた右腕を持ち上げ示して見せた。
そこには矢で貫通させた手のひらがくるまれている、そこでブレナンはこの街に来てからの己の所業を思い、罪の意識のような感情の名残を己に感じたのであった。
「あえて生かしたと?」というシュー・マの問いに
「これを持っていけ、不要なものだと伝えればわかると・・・」
そう答え、キエンの日誌を取り出した。
ジェニファーがキエンの家の壁をすりぬけた際に、文字は失われ白紙となった代物だ。
そしてその事実をキエンに知らせ、ジェニファーから手を引かせる具体的な手立てをこうじなければならなかったのだ。
フェードアウトに日誌を手渡すと、パラパラめくり、真っさらなページを目の当たりにして当惑を隠せなかったようだった。
「これは・・・ヨーマンがやったのか?!」
かぶりを振って否定し言葉を添えた。
「レイスが盗ったときからこうだったといってやした」
フェードアウトの表情が笑顔に変わり、「ならいい、その方がいいってもんだ」
と繰り返すと、シュー・マすら状況を楽しんでいるようにすら見受けられ、
フェードアウトとシュー・マはブレナンに、視線で先をうながしているようですらあった。
「メッセージを運べ、キエンに伝えるんだと、たしかそんな名を言っていた。
生と死のラインはわずかなバランスで保たれている、それは名誉と報いのわずかなバランスだ、もしレイスの身に何かあれば、死神は舌なめずりしてそのバランスを崩すだろう、かのものの矢の先端にはキエンの名が刻まれ、その刻を待ち受けているのだから・・・と」
数ヶ月前に同じような口上を別の相手に伝えさせたことがあった、そのときともにいた女性は、ブレナンに守られることを潔しとせず、この街を離れる道を選んだが、ジェニファーは、話された計画に対してただ黙ってうなずいて応じたのみ。
それはブレナンに対する全面的な信頼の証に他ならない。
「わかりました」フェードアウトとシュー・マは困惑したまなざしをお互いに交わしたのちに、シュー・マが言葉を発した。
「いいでしょう、渡しておきましょう」それにあとおしされたようにフェードアウトもうなずいて下唇に指をあてがい言葉を添えた。「それでいいだろうな」
すると立ち上がったシュー・マがブレナンに畳み掛けるように語りはじめる。
「これで汝の価値は証明されました、シャドーフィストはそなたとの関係が良好であり長きにわたるものであることを望むものとします」
シュー・マを見つめたブレナンは、ようやく己に対して微笑むことを許したらしく、穏やかな表情で答えをかえした。
「そう願えれば幸いだ・・・それにこしたことはない」と。